慰謝料請求をされた方へ
慰謝料を請求された方へ
浮気の事実や証拠があるからといって、慰謝料が認められるとは必ずしも限りません。法律上は、慰謝料請求が認められるための条件が色々定められており、その条件を満たさなければ慰謝料請求が裁判で認められることはありません。
このページでは、不倫・不貞慰謝料の請求権が法律上成立しない場合とはどのような場合なのか、不倫慰謝料を請求された側がどのような反論をすることができるかなどについて、詳しくご説明いたします。
不倫慰謝料の請求が成立しない場合
不倫・不貞慰謝料が発生するための法律要件
相手方が不倫・不貞慰謝料の支払義務が生じるには、証拠の有無にかかわらず、以下のすべての要件を満たさなければなりません。仮に、相手方が、以下の要件のうち1つでも満たしていないのに、請求をしてきた場合には、請求を拒否することができます。
不倫・不貞慰謝料の法律要件
- 夫・妻と第三者との間で婚姻共同生活の平和を害する行為があったこと
- 不倫・不貞の相手方が、夫・妻が婚姻していることを知っていたこと、または知らなかったことに過失があること
- 不倫をされた人が、不倫・不貞行為及び相手方を知ったときから3年を経過していないこと
- 当該加害行為の当時、請求者側の夫婦関係が破たんしていなかったこと
上記要件が欠けると請求はできない
先ほどあげた各要件のうち1つでも満たさない場合には、慰謝料の支払義務は法的には生じません。したがって、慰謝料請求を受けた場合には、上記の4要件のうち、一つでもかけているものがないかを検討する必要があります。 慰謝料請求している側も、この4要件のうちどれかについて満たさない可能性があると考えつつ、それを伏せて慰謝料請求してきている可能性があるので、不貞行為をしたとして慰謝料請求された場合には、まず弁護士にご相談することをお勧めいたします。
故意・過失がなければ請求に応じる必要はない
不倫・不貞をした方に、故意・過失がない場合には、法律上、慰謝料請求権は発生しません。
「故意」とは、簡単にいうと、「わざと」加害行為をしたことをいい、具体的には、相手が既婚者であると知っていたことをいいます。また、「過失」とは、きちんと注意していれば法律に反する行為をしないで済んだはずだったのに注意をしなかったことをいいます。つまり、注意していれば相手が既婚者だと気づいたはずだったのに不注意で気づかなかったということです。
例えば、交際をしていた相手が、結婚指輪を外していたり、結婚生活・子どもの話をしていなかったりしたような場合、その他日常の挙動から既婚者であると疑いを持ち得なかったという場合には、相手が既婚者であると知らなかったということがあり得ます。ここでは、交際相手の戸籍を見せてもらうとか、そこまでの確認義務が求められるものではありません。そこまで求められてしまうと、ほぼすべての事案で少なくとも過失は認められることになってしまいます。
このような場合には、故意・過失が認められず、不法行為が成立しない、つまり、不倫・不貞の慰謝料請求に法律上応じる必要がない場合があります。
不倫・不貞慰謝料請求は3年で時効になるい
また、仮に他の要件を満たすとしても、不倫・不貞行為の発覚から3年以上経過している場合には、民法の定める消滅時効にかかります。民法では、不倫・不貞慰謝料請求に限らず、他者の加害行為により被った損害賠償請求をすることができる期間を基本的に3年間に限定しているのです(※身体に対する加害行為の場合などの例外はあります)。
したがって、不倫・不貞行為の事実および自分がその相手であることが発覚してから3年以上経過してから不倫・不貞慰謝料を請求された場合は、「消滅時効が完成しているので支払わない」という意思表示(時効の援用)をすることにより、慰謝料請求を拒絶できる可能性があります。
不倫慰謝料の請求をされた側の反論のポイント
ここからは、不倫・不貞慰謝料の支払い義務または支払い金額を争う時の反論のポイントについて、ご説明いたします。
そもそも不倫・不貞行為自体がなかった場合
相手方が「不倫・不貞行為があったこと」の立証をしなければならない
不倫・不貞慰謝料の発生原因となる「不倫・不貞行為」とは、裁判所の言葉を借りると、「婚姻共同生活の平和を害する行為」などと言われています。典型的には「性行為・肉体関係」のことですが、これに限られるわけではなく、プラトニックな関係であっても、過度に親密で配偶者がこれを知った場合には婚姻関係に悪影響が出るであろうと客観的に認められる行為は、慰謝料の原因となる可能性があります。
なお、「性行為・肉体関係があったこと」は、相手方(不倫・不貞慰謝料を請求する側)が、証拠により証明しなければならず、不倫・不貞慰謝料請求を受けた側が「性行為・肉体関係がなかったこと」を積極的に証明する必要はないので、主張されている不貞行為の事実がないにも関わらず、「していないならその証明をしろ」などと求められても、これに応じる必要はありません。
とはいえ、たとえばホテルで同宿するなどの行為があると、社会通念上、その男女の間には性行為が持たれたと推認され、結果、不貞行為があったとして慰謝料が命じられる事例が実務上は多いです。「ホテルには一緒に入ったが、トランプをしていただけだ。不貞行為の立証義務は請求者側にあるのだから、慰謝料を取りたければ、ホテルのなかで性行為をしたことの立証までしてみろ。」と主張しても、さすがにその主張を裁判官が受け入れるということはないということです
また、プラトニックな関係であっても慰謝料が認められてしまうケースとしては、例えば、昼間とはいえ度々デートを重ねる、誤解を招くような親密なメールのやりとりを長期間にわたって行う、等です。ただし、このようないわゆるプラトニック不倫の場合、その内容にもよりますが、性行為・肉体関係がはっきりと認定されたケースよりは慰謝料の金額が少なくなる場合もあります。
「相手が既婚者であるとは知らなかった」場合は慰謝料を払わなくてよい?
交際相手となった方が既婚者であることを知らず、かつ、既婚者でないと信じたことに不注意(過失)がなかった場合には、不倫・不貞慰謝料の請求が認められません。法律では、不倫・不貞慰謝料の請求が認められるためには、不倫・不貞をした側に故意・過失があることが条件のひとつと定められているからです。
また、裁判例上、慰謝料金額は、被害者側の事情だけではなく、加害者側の事情も含めた一切の事情を考慮して定められるとされておりますので、不倫・不貞の故意が認められず、過失のみが認められた場合には、故意が認められた場合と比べて慰謝料の金額が低くなることがあります。相手が既婚者であると知っていた場合と不注意で知らなかった場合では、前者の違法性が高いと考えられることが多いという理由であるようです。慰謝料は、被害者に生じた精神的損害を補填するものであり、理屈を突き詰めると、加害者側の事情を考慮するのは整合しないような気もしますが、ともあれ裁判所の実務の大勢はそのように考えているようです。
独身だと聞かされていたら慰謝料を払わなくてよい?
実際に交際相手の方から既婚者であると知らされていなかったとしても、安易に「既婚者であると知らなかった」と反論が通るとは限りません。なぜなら、多くの不倫・不貞ケースでは、不倫・不貞をした2人がもともと何らかの関係(同僚など)にあって既婚者であることを知り得たと判断されることが多いですし、仮にそうでなくても、関係を続けていくうちに、土日には絶対に会えないし連絡も出来ない、住所などを教えてくれない、自宅に行きたいといったら断られるなど、相手が既婚者かもしれないと気づくきっかけがあることが多いからです。
このようなケースで「既婚者とは知らなかった」と反論する場合には、丁寧に自身の主張の根拠を組み立てていくとともに、仮に慰謝料が認められてしまっても故意のケースよりも減額をするという方向にもっていく活動をするべきです。
「不倫・不貞の前に夫婦関係が破たんしていた」という反論
すでに夫婦関係が破たんしていた時には不倫・不貞慰謝料を支払う必要はない
2人の交際が始まる前に相手方の夫婦関係が客観的にも破たんしていた場合には、不倫・不貞慰謝料を支払う必要はありません(最高裁判所平成8年3月26日判決)。
不倫・不貞行為が不法行為となるのは、その行為が夫婦の婚姻共同関係を侵害・破壊する行為だからです。そのため、もともと夫婦関係が破たんしていたときには、そもそも保護の対象となる利益がないので、慰謝料を支払う必要がないのです。
夫婦関係の「破たん」とは?
ここでいう夫婦関係の「破たん」とは、「客観的にも婚姻関係が修復の見込みのない状態となっていること」をいうと考えられています。
離婚したいと思っていただけでは「破たん」とならない。
裁判所は、夫婦関係の破たんの有無を極めて厳格に判断しています。交際相手から離婚したいという気持ちを聞かされていただけでは「破たん」の反論が認められないことが通常であり、特に、別居の期間が長期間にわたっていることは、重要な客観的な事情と考えられることが多いです。
ただし、「破たん」とまでは認められない場合であっても、もともと夫婦関係が不和・危機の状態にあった場合には、不倫・不貞慰謝料の金額を減額すべき事情としてとらえられることもあります。
もともとの夫婦関係が悪化していたとある程度の根拠をもって説明できるときには、「当時(請求者側の)夫婦関係は客観的にも破綻しており、慰謝料の支払義務はない。仮に客観的に破綻していたといえないまでも、相当程度に悪化していた以上、慰謝料は低額になる。」という2段構えの主張をしていきつつ、最終的に支払可能な条件での和解に持っていくことが、慰謝料を請求されている側の定石の一つであると言えます。
「夫婦関係がうまくいっていないと信じていた」という反論
例えば、交際相手から「もう夫婦関係は破たんしている」、「すぐにでも離婚するつもりだ」と聞いていた場合に、それだけで慰謝料の支払義務が否定されるかというと、極めて厳しいです。
「夫・妻とは上手くいっていない」、「もう別れるつもりである」と嘘をついて関係を持ちかけるという話は、一般によくある話です。既婚者であるのに配偶者以外に言い寄る人の言葉は警戒するべきと考えるのがある意味常識と考えられますから、相手の言葉をただ軽率に信じていただけでは、故意・過失は否定されません。
ただし、不倫・不貞の相手となった夫・妻が積極的に嘘をついていた事情は、不倫・不貞慰謝料の金額を決めるにあたって考慮されることがあります。
「念書・示談書の作成を強要された」という反論
相手方に呼び出されて行った先で、不倫・不貞慰謝料の支払いを認める念書・示談書などを無理強いさせられたという話は、聞きます。書面の作成までされていなくても、不貞の自白を録音に取られているということも多いです。最近はスマホで録音が極めて容易になっているので、むしろ、録音されていない事案のほうが少ないという印象です。
書面(ないし録音)を作成された場合には、①不貞の証拠とされてしまう場合と、②慰謝料額まで含めた書面を作成させられてしまっており、それが不貞の証拠であることに加え、慰謝料自体の根拠として用いられる場合、の2通りがありえます(実際にどちらもよく見ます)。②は、一種の契約書と言えます。
まず、①の意味の書面(ないし録音)の場合でも、その信用性を否定することができれば、総合的に考慮して、不貞行為の事実はなかったと言えるケースも多いです。
また、②の意味の書面(ないし)がある場合でも、それが背景事情の錯誤のもとに作成された場合、何らかの脅迫によりなされた場合、あるいは法律的な常識(「公序良俗」といいます)に著しく反するような場合には、その全部または一部が無効になることがあります。
できる限り弁護士に相談を
ケースによっては、上記の各要件を満たすかどうか、不倫・不貞慰謝料の請求を受けた方の反論が認められるかどうかについての判断が専門家でも難しい場合があります。ご自身だけで判断し、相手方の要求のままに不倫・不貞慰謝料を支払ってしまう前に、できる限り、弁護士にご相談ください。