離婚に向けて別居をお考えの方へ
1.別居したほうが良い方
以下の項目が該当する方は、お早めの別居をお勧めいたします。
当事者のみでの話し合いが難しい。
互いが感情的になり当事者のみで冷静な協議ができない場合は、早めに別居を開始し、代理人である弁護士を通じて協議を進めることをお勧めいたします。別居と同時に弁護士から受任通知を送付しておけば、警察や知り合い等に居場所を探すため連絡をされる可能性も少なく、その後スムーズに離婚協議に移れるケースが多いです。
相手の暴言・暴力が激しく、精神的に辛い。
このような状況で冷静な協議はできませんし、従来の力関係のまま離婚協議を押し切られてしまう可能性が高いです。早めに別居を開始し、弁護士を通じて協議を進めることも方法の一つです。
当事者のみでの話し合いが難しい。
不倫や暴力のように明確な離婚原因が無い場合、相手方が離婚自体を拒めば、別居期間が相当期間経過しなければ容易に離婚が認められません。そのため、別居を早めに開始することが、結果的に早期の離婚への近道となります。
当事者のみでの話し合いが難しい。
同居しているものの十分な生活費を支払っていただけない場合は、速やかに別居を開始し、婚姻費用の請求を行うことをお勧めいたします。相手方がきちんとした仕事についている場合、最終的には婚姻費用は回収できる可能性が高いです。
2.別居の重要性
もう同居を継続することはできないと考えたとき、まず思い浮かぶのは相手との別居ではないでしょうか。今回は離婚するにあたっての別居の意義、重要性についてご紹介します。
離婚原因になる
仮に相手方が離婚自体に納得しないなどの事情で合意による離婚が成立せず、離婚自体について裁判所の判断を仰ぐことになった場合、裁判で離婚自体が認められるためには、裁判所が「客観的に婚姻関係が破綻している」と判断することが必要です。
ここでは、当事者の双方が離婚という結論自体は争っていないという事情があればこの「客観的な婚姻関係の破綻」が基本的に認定されますが、当事者の一方が離婚自体を争っている場合には、その他の周辺事情からこの「客観的な婚姻関係の破綻」を認定してもらわないといけません。また、判決の時点では相手方が離婚自体を争っているが、その前のどこかの段階で相手方が離婚自体は認めていたとか、相手方のほうから離婚を求めてきていたという場合には、この「客観的な婚姻関係の破綻」が認められやすいです。
この際、不貞や暴力といったわかりやすい有責事由がある場合にはそれだけで離婚自体が認められやすいのですが、そのようなわかりやすい離婚事由がない場合、裁判所が重視するのが、夫婦が相当の期間別居しているか否か、という点です。「客観的な」婚姻関係破綻というからには、当事者が「離婚したいと思っている」「もとの夫婦関係に戻るつもりがない」というだけでは、裁判所も、「客観的な」婚姻関係破綻は認めにくく、やはり何かしら客観的なメルクマールが必要ということでしょう。
具体的な期間は事案によって様々ですが、一つの目安として、別居期間が3年以上になると離婚が認められやすいといわれていますが、必ずしも3年別居していないとだめというわけではなく、1年ちょっとの別居期間で離婚が認められているケースもそれなりにあります。
また、この判断にあたっては、その他の離婚原因(モラハラ等)が悪質な場合には別居期間が短くとも離婚が認められやすく、悪質とまではいえないという場合には別居期間はある程度長いことが必要とされております。
なお、仮に離婚を求める側の当事者が不倫をしてしまっているなど、婚姻関係破綻の原因を作出してしまったケース(これを「有責配偶者」などといいます。)では、この判断基準が必ずしもあてはまらなくなり、有責配偶者からの離婚請求が認められるための重い条件を満たす必要が出てきますので、そのようなご事情がある場合は、事前に弁護士にその事情をお知らせいただくことが大事です。
財産分与の基準時となる
夫婦が離婚する場合、婚姻中に二人で作り上げた財産を分け合い清算すること、これを財産分与といいます。財産分与においては、貯金、家、車などが対象となり、これらを離婚する二人で分け合うことになります。
その際に問題となるのが、「いつの時点で区切りを付けるのか」という点であり、そこで重要なのが、「別居のタイミング」になります。誤解されやすいポイントですが、財産分与は離婚した日における財産を分けるのではなく、夫婦が別居した時点における財産が対象となることが多いです(これを「基準日」などと言います)。
つまり、夫婦が別居した後、一方の配偶者が夫婦の共有財産を使ってしまった場合であっても、別居時を基準として考えるため、流出してしまった財産も含めて財産分与をする別居日以降に相手方が財産分与の対象を減らそうと画策して財産を費消しても基本的に意味はない)ということになります。
単身赴任でも「別居」になるの?
仕事で単身赴任しただけでは、「別居」とは言えず、裁判で「別居」と認められるためには、別居の意思表示が必要になります。「離婚を求めます」「もう家には戻りません」「家に帰ってきても一緒に住む意思はありません」という形で別居ないし離婚を求める意思を示す必要があります。
これは置手紙(コピーを取っておく)や、LINEなどでも構いません。
家庭内別居でもいいの?
いわゆる家庭内別居であっても、同じ屋根の下で生活している以上は夫婦の協力関係が終了していることが客観的に明らかとまではいえませんので、財産分与における基準時としての「別居」には該当しない、と扱われることがほとんどです。
別居と同居を繰り返す場合は?
一旦家を出た後再び同居し、さらに別居をする、というケースもあります。このように複雑な場合はケースバイケースの判断になりやすいですが、最後の別居のタイミングが「別居」になることが多いです。
別居を決めたら
まずは住む家を見つけなければなりません。一時的に実家のご両親を頼るという方も多いです。弁護士がつくような問題がこじれるケースでは、基本的に別居と同時に、子供の養育費を含めた婚姻費用を請求して、当面の生活の原資にしていただきますが、この婚姻費用も、すぐに払ってもらえるとは限りません。
多くのケースでは婚姻費用を払ってもらうための裁判所の手続き(婚姻費用分担調停)を起こしますが、ここで相手方が婚姻費用の支払に抵抗した場合、支払を得られるまで半年程度かかることもあります。そのため、実家等に住んで当面の生活の目途が立つということはとても重要です。
実家の援助を得られないなど、当面の生活の目途がたたず、かつ婚姻費用分担調停も長期化しそうだという場合、婚姻費用の仮払いを求める保全処分という手続きを起こすことも検討しないといけませんが、それなりに負担のかかる手続きですので、相手方からの婚姻費用の支払いがなくとも当面の生活ができるというのが望ましいです。
また、財産分与も見据えると、同居中に、夫婦の間に預貯金、土地といった、いかなる財産があるのかを確認しておくことが重要です。具体的には、通帳のコピーを取る、不動産の査定をしておくこと等が考えられます。
これらを見過ごしたまま別居してしまうと、後の財産分与で本来あったはずの財産が隠されてしまい、もらえるはずのお金が得られなくなるというデメリットが生ずる可能性があります。また、これらの資料を取りに戻った際、相手から不法侵入と言われるおそれもあります。
離婚に際しては勢いで行動してしまうケースも多いですが、別居時には冷静に対応しましょう。
終わりに
今回は、離婚に際しての別居の重要性をご紹介しました。
1つは、別居が財産分与の基準日になるため、裁判で離婚が認められるにあたっての必要な判断要素となること、もう1つは、財産分与において得られる財産の額に変動を及ぼす可能性があることです。しかし、別居に当たっては証拠の収集や相手を過度に刺激しないことなど、他にも様々な留意点があります。
「別居したいけど何をしたらいいんだろう…?」
そのような方は、弁護士にご相談ください。別居に向けたサポートのノウハウも蓄積されていますので、お客様の状況に応じ、最適な手段を一緒に考えさせていただきます。
3.別居する準備
① 財産分与の情報収集
別居を開始すると、後から元の自宅に証拠を探しにいくことは難しくなります。通帳(できれば中身のコピーも含めて)、保険証券、自宅関係の資料(権利証、住宅ローンの残債通知等)等は可能な限りコピーをお取りして下さい。
② 不倫の証拠収集
別居開始後相当期間が経過すると、仮に不倫の証拠を取得しても、別居後に初めて男女関係に至ったという反論を受けかねません。裁判例上、別居後相当期間が経過してからの不倫は、違法と評価される不貞行為にそもそも当たらない、あるいは違法性が低い、と判断されてしまうケースがあります。
そのため、不倫の証拠をとれる見込みがある場合には、必ず別居開始前または少なくとも開始直後までには取得し、それが同居中、少なくとも別居直後にははじまっていたことを立証できるようにしておくことが重要です。
③ 子供がいる場合の別居
お子様がいらっしゃる場合、相手の承諾を得ることなくお子様を連れて別居をして良いかは非常に回答が難しいところです。可能な限り相手の承諾を得ていることが望ましいですが、親権が大きな争点となっている場合に承諾を得ることは容易ではありません。そのような中で、相手の承諾無く子供を連れ去った場合、「違法な連れ去り」と主張され、子の引渡し請求や人身保護法上の引渡し請求を受けかねません。
最終的には、従前の監護態勢、子供の年齢、別居後の監護環境、その他お子様をめぐる一切の事情を考慮した上で判断されることになります。
非常に繊細な問題ですので、ご自身で判断されることなく、事前に弁護士に相談されることをお勧めいたします。
④ 婚姻費用請求
別居した場合、当面の生活が厳しい場合があるかと思われます。その際は、別居後速やかに婚姻費用の支払を相手に求めることが重要です。請求を開始するタイミングや方法によって、最終的に遡って支払が認められる時期が変わりかねませんので、お早目に弁護士にご相談されることをお勧めいたします。
婚姻費用については、算定表という簡易に婚姻費用額を算出できるツールが広く使われておりますが、実際には、きちんと請求することで、これに子供の保育料、学費等に充てるための加算を得られるケースが相当数あります。この保育料、学費等に充てるための加算の請求は理論的な組み立てが難しいため、この部分の請求をするのであれば、離婚事件に精通した弁護士への相談をお勧めします。
4.別居前から弁護士に依頼するメリット
① 確実に証拠を準備
別居開始後に自宅に戻って証拠を集めるといったことは基本的に期待できませんし、相手方に無断で元の自宅に入った場合には刑法上の住居侵入罪に該当する可能性があります。
別居前から弁護士と相談しながら証拠を集めることで、後の交渉や裁判を有利に進めることができます。
② 円滑な別居開始
相手に無断で別居を開始したような場合、別居直後より相手から激しく連絡がきたり、別居先や就業先に会いにこられるなどされかねません。
また、お子様を連れて別居を開始した場合、その態様次第では裁判手続きで子の引き渡しを求められるなど、さらなる紛争の火種を招きかねません。
事前に弁護士と相談しながら別居を開始し、別居と同時に弁護士から受任通知書を送付しておくことで、可能な限り円滑に、そして別居開始直後より弁護士が介入することで皆様の精神的負担を最大限軽くすることができます。
③ 別居後の生活を見据えた対応
別居を開始すれば、今までと全く同じ生活ができるわけではありません。家賃はどうするのか、学費はどうするのか、お金の悩みはつきません。
事前に弁護士と相談しながら別居を開始することで、別居直後に婚姻費用の請求が可能となり、別居に伴う生活費のロスを可能な限り最小限にできます。特に、保育料や教育費の加算の請求がご自身での対応では難しいケースが多いので、そのための理論も含めて詳しい弁護士への相談をお勧めします。
5.弁護士法人グレイスに依頼するメリット
弁護士法人グレイスは、離婚に特化した弁護士が年間1000件を越える離婚相談に対応しており、数多くの夫婦の紛争を経験しております。別居前からのご相談・ご依頼の実績も多数ございますので、皆様の離婚に向けた別居を最大限サポートさせていただきます。